秋田市新屋。宿場町や水運の要所として、そして現在もまちに残る醸造業などで栄えた地域です。秋田市の中心部からは車で15分ほど、河口もまもなくに控えた雄物川を渡ってすぐの住宅街に <いとう版画工房> はあります。
おばあさまの家のガレージを改装したという工房。そのガレージ部分(現在の工房)と家屋部分をつなぐ形の玄関の土間で、版画家・伊藤由美子さんが迎えてくださいました。
重量感あるプレス機などの道具や画材、刷り終わった作品の乾燥棚などがならぶ工房で、12月4日(日)までの会期で開催中の「伊藤由美子 版画展 気配」について、伊藤さんにとっての版画についてなど、お話をうかがってきました。
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伊藤さんが版画で作品づくりをするようになったのは高校の美術部でのこと。子どものころの木版画がたのしかったという体験を思い出したのがきっかけだそうです。ほかにやる部員がいなかった版画も顧問の先生は「やってみたらいいよ」と自由に制作をさせてくれたそうです。
その後「版画(木版画)をやりたい」と進んだ大学でも、ほかの表現も経験しつつもこころざしは変わることなく表現を深めてゆき、今に至るとのことでした。
モチーフやテーマとしてよく選ぶのは日常や身近にあるものごと。だからでしょうか、伊藤さんの作品は観ていてすうっと入ってくるように感じます。一方で強く心情が入り込む時は抽象的な表現にもなるそうです。それでも作品が難解な気配はまとわず、やわらかであたたかな作風に感じるのは、伊藤さんの版画へのこころざしが澄んでまっすぐなものだからなのかもしれません。
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今回の版画展にならぶ作品はすべて「水彩モノタイプ」という、平らな版に水彩絵の具で絵を描きプレスをかけて刷る技法で描かれたものです(油彩絵の具などほかの画材になる場合もあります)。版画は、凸版、凹版、平版、孔版の4つに大きく分類されますが、「モノタイプ」は版画の世界では一種独特な技法ともとらえられているそうで、それ自体が一個の技法のような存在なのだそうです。
その「水彩モノタイプ」という技法で今展の作品を描いた理由もうかがってみました。
たとえば木版画のように元絵から綿密に版を彫る、刷るという計画性と技術が必要な技法にくらべると、工程も容易で少なく、感性を直接落とし込みやすい自由さのある表現だと伊藤さんはおっしゃいます。その自由さが今回の作品展ではほしかったとも。
それはたぶん観る側にもよく伝わることで、(個人の感想と前置きしつつ)作品を観た第一印象はとてもすうっと入ってきて、観る人それぞれの感性で咀しゃくしやすい、「ご自由に」という気配をまとっているように感じました。
そのことを伝えると、伊藤さんもまさにという様子で「自由に観て欲しい」と言ってくださいました。そしてその自由な感想も聞いてみたいとも。
自由−−
今回お話をうかがって印象に残った言葉でした。
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まずは作品をご覧いただき、自分なりに楽しんでみてください。
そうすれば感想は自然とうまれると思います。
その感想を、一度言葉にしてみるのもよいものだと思います。
(直接伝える機会がなかった、あるいはちょっと恥ずかしいという場合でも、感想ノートも用意してくださっています。最終日には「語らう宵の喫茶室(感想を語りあう会)」も設けています。)
ぜひ、自由に。
| 伊藤由美子 版画展 気配
会期: 2022年11月19日(土)~ 12月4日(日)
会場: 交点(秋田県秋田市保戸野通町6−2-2F)
観覧無料 ただし会場が喫茶店のため店内喫茶かテイクアウトのご利用をお願いいたします
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| 作家プロフィール
伊藤由美子(いとうゆみこ)
版画家
秋田県秋田市 出身
岩手大学 教育学部芸術文化課程 卒業
筑波大学 芸術専門学群美術専攻 研究生を終了
2019年12月 いとう版画工房を開設 (秋田市新屋)
2020年12月 伊藤由美子 作品展 「portrait」(ココラボラトリー / 秋田市)
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