題名をつけるかもしれない随想
店主ふたりのシーソーエッセイ
ぎっこんばったん
もうひとりが地面を蹴ったら次の文章に入れ替わります
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『室内でカネタタキの姿を見つけ出すこと』
私の新たな特技が生まれた。
カネタタキとはコオロギの仲間で秋に鳴く虫。体長が7mm〜15mmととっても小さい。「キッキッキッキッ…」と控えめだけどよく通る声で鳴く(正確には前翅を震わせている)。鳴き声がお囃子などで使われる「鉦(かね)」を叩く音に似ているのが由来らしい。屋外では花壇や草むらの中で鳴いているのをよく聞くのだが、何かの拍子で室内に迷い込むことがある。カネタタキは樹上性(木などに登る)らしいので壁や階段を登ってくるのだろうか?もしくは人間の靴とかズボンの裾とかにくっついて移動するとか?どのルートでお越しなのかははっきりわからないけれど、2階にある交点でも毎年少なくとも1回は迷いカネタタキと店内で遭遇する。
「キッキッキッキッ…」
澄んだ声で鳴いている。室内の壁に反響して鳴き声がよく聞こえる。でも小さすぎて見つけられない。耳に全神経を集める。
「キッキッキッキッ…」
音が丸い塊のように濃く聞こえる方へ耳を向ける。人が近づくと鳴くのをやめてしまう。鳴くまで待つ。
「キッキッキッキッ…」
ここか!?と机の裏や椅子の足元を覗いたりしてみる。
「あ!いた!」
思わず声を出してしまった私。文庫本を置いている壁側の席、本を持ち上げたらカネタタキが壁にくっついていた。小指の爪ほどの大きさ。そんな小さい体からどうすればそんな大きな声が出るのか不思議でならない。見つけたカネタタキをよく観察してみると、お腹周りに黒い帯状の模様がある。そういえば燕尾服を着ている人ってこういう帯みたいなのを巻いてなかったっけ?(カマーバンドと言うらしい)ドヤ顔でマレット(打楽器用のバチ)を操っている、粧しこんだカネタタキの姿が目に浮かび、私はいつしか微笑んでいた。
そんな妄想を一旦傍に置き、潰してしまわないよう優しくカネタタキの足元に指を添えて指の上に移動してもらった。キャッチ成功。店の中で奏でるのはカネタタキのソロコンサート。これはこれで季節を感じる音色なんだけれど、草むらや花壇にはコオロギなどの仲間たちがたくさんいる。私たちは迷い込んだカネタタキを外の世界のオーケストラピットへリリースする。
飛び跳ねるように鉦の音鳴りひびく姿の見えぬパーカッショニスト
薄暮より街の隙間のコンサート秋の虫たちフィルハーモニー
(三麻)
2026.10.2. up
Text &Photo : Igarashi Mayu(Mima)
